◆海外遠征 行動レポート
2025.7.20~7.25 台湾
7月20日
今年3回目の台湾遠征。今回は7月25日までだが、初日と最終日は移動のみなので、実質の撮影は4日間となる。台北の南、竹中や台中を宿泊地として、バスで標高2000mの山岳地帯に登り、高地性のホッポアゲハ、アケボノアゲハ、フトオアゲハを狙う計画だ。高標高地は悪天候になることも予想されるため、予備地として台中の谷関も考慮した。自宅発午前10時、JRで関西空港へ移動、15:45のピーチ航空で台湾台北桃園空港に向かう。飛行機が上昇中、逆光のなか、小豆島が幻想的に瀬戸内海に浮かんでいた。
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その後ウトウト、目が覚めると見慣れた桃園空港上空だ。しかし一向に着陸態勢に入らない。機内アナウンスによれば飛行場が込み合い、着陸の順番待ちとのこと。台北の西の海上をグルグル旋回、着陸態勢に入ったのは20分後であった。なぜかこの空港に着陸するときはいつも雨!今回も御多分に漏れず、小雨に煙る桃園空港に着陸する。前回の遠征で大失敗した動植物検疫免除カードを今回はしっかり手に取り通路を移動、入国審査も極めて順調、待ち時間ゼロだ。そうそう今回も入国に際しては事前にオンライン登録したわけだが、5月の制度改正により、パスポートの自分の顔写真を自分で撮影し、申請書に張り付ける作業が追加されていた。しかも申請は2日前からしか受け付けないようで、初めてオンライン申請する場合は試行錯誤することになるだろう。小生も約一ヶ月前に申請の練習をしたが、最初はうまくいかず4~5回後にやっと成功した。事前練習の甲斐あって今回は一発成功だ。申請時のお知らせによれば、これまでの紙による申請は10月で終了、今後はオンライン申請のみとなる旨の記載があったが、オンライン申請ができない方もいるはずなのに今後どう扱うのか不明だ。預けた荷物を待つ間にSIM交換を済ませ、荷物も早々に出てきて入国ゲートを通過、先に来ていた友人と合流した。ここまではまったくトラブルなしだ。MRTで台湾新幹線の桃園駅に移動、指定席の空き状況を確認するも一時間後まで空席なし。仕方がないので自由席で新竹まで向かうことに。ホームに降りてみれば長蛇の列!どうやらこの時間帯は通勤(退勤)時間帯にあたり、たぶん毎日こうなのであろう。結局最初にホームに入った列車に乗れず、約10分待って次の列車に乗る。当然、車内はぎゅうぎゅう詰め、次の駅で降りなければならないこともあって、デッキで立つ羽目に。15分我慢し新竹駅に到着、小雨が降り続いていることもあってタクシー乗り場に急ぐ。またしても長蛇の列だ。待つこと30分、やっとタクシーに乗り込めたのは良いが、運転手にホテルの名前を伝えても通じない。いやな予感が頭をよぎる。友人がプリントアウトしてきたホテルの住所を頼りにホテルを探す羽目に!ナビではすぐ近くまで来ていることは分かるが、ホテルが見つからない。車道から脇道に入り、最後にうらぶれた路地に入る。小汚いアパート群のドン詰り、どうやらこの辺りらしい。道端でおしゃべりに夢中なオバチャンに聞けば、向かいの建物を指さした。目の前にあったのはごく普通の古びたアパートだ。当然、玄関もないし、フロントもない。そもそも入口の扉が閉まり、開けるには番号開錠が必要のようだ。いわゆる民泊宿だった。
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このホテルを探した友人はおおよそ理解していたようだが、何も事前情報を持ち合わせていなかった小生としては“目が点”になった。友人からHELPメールを発信、すぐ入口近くの扉が開き、管理人と思われるお姉さんが出てきた。ケータイの会話翻訳機能を使って、状況を説明してやっと部屋を確保することが出来た。このホテルの予約は近頃、世間で叩かれている旅行紹介のA社で行ったこともあり、“やられた!”と思ったが、よく聞けばそうでもないようだ。要するに、予約した電子媒体(小生の場合は自宅設置のパソコン)へ、宿泊日の午後(チェックイン直前)に建物入口扉の開錠番号、予約した部屋の開錠番号を連絡しているわけだ。つまり、予約自体がスマホを前提としているため、今回連絡が受け取れなかったらしい。すべての手続きや連絡がスマホだけなのだ。はたしてこれが良いシステムかどうかは大いに疑問を感じた次第である。部屋は古いアパートを改修してホテルの部屋にしているのだが、造りに無理がある。また、湿気がすごいらしく、除湿器はつけっぱなし!しかも騒音が半端ではない。騒音対策として、なんと室内には耳栓が常備されていた。最後にトラブルに見舞われ大疲れ!午後10時就寝。
7月21日
台湾滞在2日目、それでもって撮影初日。台湾鉄道(略称:台鉄)で宿のある竹中駅から一駅移動し六家駅に到着。ここの駅前から出る路線バスで標高2000mにある観霧国家遊楽区(いわゆる国立公園)に向かう。出発7:10の10分前にやって来たのはオンボロのマイクロバス、乗客は我々2人を含めて5人。街なかを30分で抜けて、いよいよ山道に入る。このバスに乗ったときから薄々感じていたのは運転手の運転の荒っぽさだ!とにかくスピードを出す。一年前の台湾で経験した暴走タクシーの記憶がよみがえる。制限速度20㎞表示のあるカーブを40㎞オーバーで突っ込んでいく。連続する急カーブ、ものすごい急坂、車一台がギリギリ通過できるほどの隘路などなど、こんなバスに2時間以上揺られ、午前9時半やっと着いた!バスに乗るだけでこれほど疲れるとは思ってもみなかった。バスを降りた駐車場は森の中、信州を思わせるような良い雰囲気だ。しかし、シトシト小雨が降り、辺りは暗い。このバスは1時間後に山を下りるのだが、その次の16:10発のバスが終バス(運行ダイヤは一日2本だけ)になるが、すぐに帰るか、ここで約4.時間半待つか大いに迷う。せっかくここまで上がってきたのに、すぐ帰るとはもったいない!迷いに迷った挙句、終バスまで待つことに決定。さすが国立公園と言うべきか、こんな山の上にも観光施設や宿泊施設が点在し、ハイヒールを履いた100%観光客に混じり、登山スタイルでバッチリ決めた客もチラホラ見かけ、結構人が多い。公園の中には本格的な遊歩道も整備されているのだが、出だしの急斜面にたじろぎ踏み込めない。結局車道を行ったり来たりして雨が止むのを待つが、一向にその気配がない。午前11時、小雨が降る中、意を決して未舗装の車道を奥へ進む。約1時間後、雨が止む。するとどこからともなくチョウが現れる。まず姿を見せたのは大きなシジミチョウ。イチゴの仲間と思われる白い花にとまったところをじっくり見れば、シロウラナミシジミに似ているが、沖縄産に比べて一回り大きい。見上げれば頭上30mの高所を白っぽいチョウが移動している。間髪撮影してみれば、ピンボケながらカザリシロチョウのようなシルエットだ。道の脇のノイチゴのような群落に多くのルリシジミが舞っているのが目に入る。じっくり見れば複数種のルリシジミと小さなセセリ、ウラナミジャノメの仲間も確認できる。ルリシジミのうち1種はタッパンルリシジミと同定できたが、他は分からない(帰国後アリサンルリシジミと判明)。同じ花にヒメウラナミジャノメに似た種も来ているが、こちらも同定できない(帰国後ヤマナカウラナミジャノメと判明)。八重山にいるマサキウラナミジャノメのそっくりさんもいるが、マサキは台湾には生息していないので、別種であることは確実だ(帰国後タカムクウラナミジャノメと判明)。目の前で新鮮なタッパンルリシジミのオスが開翅を見せてくれる。無茶苦茶きれい!ルリシジミ、セセリ、ウラナミジャノメの撮影に夢中になっていると同じ花に先刻のカザリシロチョウが蜜を吸っているに気が付いた。後翅裏面が黄色、2000mを超えた標高なので、たぶんタカムクシロチョウかワイルマンシロチョウであろう(宿に戻りネットで確認したところ、タカムクシロチョウと判明)。タカムクシロチョウは3~4頭いたのだが、すべて欠けまたは、スレ個体、時期が合っていなくて残念!午後1時、再び雨が降り出す。観光施設群にある売店兼喫茶店で時間をつぶす。体も冷えていたので紙コップ入りホットコーヒーを注文。値段は100元(約500円)と結構な値段だが、その場で豆を挽いているため、良い香りが漂う。しかも量は通常の2倍もあり、お値打ちコーヒーである。一息つけたのは良かったが、逆に外は土砂降りに!バス停まで500mほどあるが、この雨では外に出るのは無理!とぼやきながら雨が小降りになるのを待つ。結局小降りにならず、土砂降りは回避できたものの本降りの雨の中をバス停に向かう。バス停到着と同じタイミングでバスが入って来る。運転手は行きと同じ人物だ。要するにこの路線はこの運転手が2往復することで成立しているようなのだ。バスの発車時刻までバスの中で待っていると女性3人の登山パーティーが乗り込んでくる。年齢は皆50歳前後か?そのうちの一人が話しかけてくる。我々を台湾人と認識して話しかけてくるのだが、当然何を言っているのか分からない。「ウー・シー・リーベンレン*我是日本人」と言うと「リーベン!」と大きな反応がある。どうやら3人のうちひとりが目下日本語を勉強中らしい。“何しに台湾へ来ているのか?”、“いつまでいるのか”、“どこに泊まっているのか”などなど、台湾華語(中国語)、日本語、英語、ごちゃまぜで、しかもスマホの翻訳ソフトまで使いながらの会話となり、車内は大いに盛り上がる。3人のうちの2人は姉妹とのことで、“姉は友達が一人もいないので、仕方なく私(=妹)が山歩きに同行している”、“どちらが年上に見える?”など大笑いしながら相当踏み込んだ会話へと続く。小生に対しても、“あなたの中国語の発音は正確だ”とのお褒めの言葉までいただく。バスが発車しても騒ぎは続くが、徐々に静かになる。理由は簡単、急カーブ、急ブレーキ、急発進の連続で皆が車酔いに陥ったからだ。行きと同じく、山の途中でトイレ休憩、一息つく。3人のお姉さま方の一人から、その場で売っていた桃をひとついただいた。2時間の怒涛の山下り、在来線で一駅移動し、19:40宿に戻り、一日が終了する。
7月22日
台湾滞在3日目、そして撮影2日目。現地で確認した天気予報では、今日も高標高地は天気が良くないとのこと。友人と協議し、急遽本日の撮影地を変更する。ホテルのある竹中駅から在来線を乗り継ぎ、高鉄(台湾新幹線)の新竹駅へ。
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新竹駅から新幹線で台中駅へ移動する。台中駅からバスに乗り、八仙山森林遊楽区(公園)に向かう。台中駅まではスムーズな移動だったが、ここからのバス乗車時間の長いこと長いこと!2時間半に及ぶ。ただし、昨日の暴走バスに比べて、今日は実に穏やかに走る。“路線バスはこうでなくっちゃ!”とは思うが、やはり遅い。目的地までの途中のバス停の数は優に100カ所を超えている。朝7時50分にホテルを出て、目的地の公園に着いたのは正午であった。
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昼食を取る時間も惜しく、公園内を歩きだす。以降、出るわ!出るわ!チョウ天国の状態に。帰りのバスの発車時間16時まで、撮影しまくりの4時間であった。まず現れたのはヒカゲチョウの仲間(帰国後ウスモンヒカゲと判明)。次に現れたのはヒョウマダラ。このチョウは前回の台湾遠征時にも出遭っているのですぐ同定できた。暗い空間を緩やかに飛び、緩やかにとまる。圧倒的な光量不足の条件下、シャタースピードを限界まで落とし、手振れに細心の注意を払いながら撮影する。渓流を見下ろすために造られた展望台に出る。眼下に目をやればソクズの群落に黒系アゲハが群れている。ざっと数えても30頭はいる感じだ。確認できたのは、ルリモンアゲハ、カラスアゲハ、タイワンカラスアゲハ、ワタナベアゲハ、タイワンモンキアゲハの黒系アゲハ、ミカドアゲハ、アオスジアゲハなど。しばらく観察してみれば、オスの黒系アゲハはソクズでの吸蜜が目的だが、そばにメスがやって来ると求愛行動に切り替える場合もあるようだ。アゲハの他には、キミスジやマダラシロチョウも確認できた。ひとしきりアゲハを撮影したのち、公園内を散策する。移動を始めた瞬間、薄暗い森の中の空間を飛ぶ大きなオレンジ色のチョウが目に入る。“ワモンチョウだ!”すぐ後を追うが、とまることなく移動したため撮影チャンスはなし。シャッターを押した飛翔シーンもすべてダメ、痛恨の失敗だ。公園内を巡ると次々といろいろなチョウが現れる。センダングサで蜜を吸っていたのはタイワンキマダラ。地表スレスレの高さでまとわりついていた2頭のビロウドセセリの仲間(帰国後タイワンビロウドセセリと判明)。ミスジチョウの仲間も次々現れるが同定できない(帰国後の画像確認で、タイワンホシミスジ、ミヤマミスジ、ニトベミスジと思われる)。渓谷沿いの遊歩道の道端のセンダングサで蜜を吸っていたのは新鮮なルリモンアゲハだ。望遠、広角、動画といろいろな機材を使って時間をかけて撮影する。地上約3m、赤い小さな細い花を付けた植栽にアゲハが集まっている。タイワンモンキアゲハ、ナガサキアゲハを中心に撮影する。人工池の縁に生えるキク科の花で蜜を吸うクロボシセセリを見る。コテージが並ぶ一角の暗い小道で活動していたのはクロコマチョウ。翅裏はやや赤みが強い印象だが、基本的に日本で生息している仲間と同じであろう。公園を一回りして、元の展望台へ戻る。ふと見上げれば、頭上3mの葉先にV字に翅を開いたタテハが目に入る。裏から見る限りイチモンジチョウの仲間であろう(帰国後タイワンコムラサキと判明)。見下ろす角度の位置にある葉先で見つけたのはコノハチョウ、しっかり翅を閉じ、微動だにせず静止を続けた。この公園では、その他、タイワンモンシロチョウ、ウスキシロチョウ、クロタテハモドキ、リュウキュウムラサキを見る。帰りのバスは16時発、20分程走り、谷関でバスを乗り換える。行先は高鉄(新幹線)台中駅ではなく、手前にある在来線の豊原駅だ。約30分の時間短縮のはずが、豊原市内に入ると、ちょうど通勤(退勤)時間帯に当たり、道路はどこも大渋滞!それでも大した遅れることもなく豊原駅に到着。豊原で在来線の特急に乗り新竹まで約50分を要した。乗車券、座席指定券、合わせて約240元(約1200円也)。以前にも紹介した通り、台湾では公共の交通機関の料金が日本に比べ安い。肌感覚では日本の1/3くらいだ。ちなみに高速道路もすべて無料。更に在来線を2駅移動しホテルのある竹中駅に到着、八仙山公園を出て3時間半かかったことになる。新竹駅の構内で売っていた日本式のウナギ風味のサカナ丼を買って帰り、ホテルの部屋で食したところ、これがすこぶる美味!びっくりだ。値段は150元(約750円成)。
昨年5月の台湾遠征後にまとめた本コーナーで、日本に比べ台湾の食料品価格は高いと述べたが、今回行ってみて、ほとんど価格差がなくなっていることに気が付いた。昨年5月の時点での肌感覚では、日本の1.5倍と感じたのだが、今回は特に意識することはなかった。要するに、この1年2か月の間に日本の食料品価格が1.5倍上昇したと言えるだろう。
7月23日
台湾滞在4日目、それでもって撮影3日目。朝から青空が広がる。期待に胸を膨らませ、2日前に同じく標高2000mの観霧国家遊楽区(国立公園)に向かう。7:10発のマイクロバスは2日前に同じく、例の暴走運転手である。今日は好天と言うこともあり、2日前に比べ乗客が多く、ほぼ満席だ。暴走運転手も心なしか嬉しそうな表情だ。30分で市街地を抜け、山道に入る。早速、暴走運転手の本領発揮!前を走る乗用車が遅いと見るや、何とアオリ運転を始めた。日本ではとにかく遅い路線バスにイライラし、チャンスがあればバスを追い抜くのが普通だが、ここは真逆!普通のスピードで走る乗用車の後ろに路線バスがぴったりつけ、アオルことアオルこと、さすがに乗用車の運転手は“こりゃたまらん!”とばかりに車を道の脇に停め、道を譲ったのだ。山の中腹でお決まりのトイレ休憩。すでに何種もチョウが舞っている。ウラキマダラヒカゲ、コモンマダラ、ミスジチョウの仲間だ。空を見上げれば雲はほとんどない。今日は終点まで行かず、最標高地点にあるビジターセンター前で下車、時間は9:40。
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7月24日
台湾滞在5日目、そして撮影最終日。昨日に続き山の上の公園に向かう。バスの運転手は言わずと知れたF1ドライバー顔負けの暴走運転手だ。3日目(計5回目)の乗車となればもはや友達扱いだ。しかし山道の暴走運転は相変わらずで今日も健在だ。昨日気が付いたのは、運転中に頻繁に短くクラクションを鳴らし、対向車や道路にたたずむ人に注意を促していることだ。よくよく考えてみれば、これらの行為は知り合いに挨拶しているのではないか?毎日毎日同じ道を2報復しているわけで、地元の人たちと深いつながりができるのもある意味自然なことかもしれない。標高を上げていくと、山の重なりの向こうに都会の街並みと更にその向うには海まで見える。さすがに中国大陸までは見えなかったが。谷を隔てた隣にも2000mの山並みが続くが、目を凝らして見れば、山腹の低いところから高いところまで点々と白いものが確認できる。
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これらはすべて建物なのだ。建物があると言うことは、そこに通じる道が必ずあることになる。山に登る途中、集落を通過する際、タイルのレリーフにて、ここは台湾先住民の集落であり、原住民のかつて暮らしを物語風に示していた。予定通り9:35ビジネスセンター着。日差しは強烈だが、ここは標高2000m、やや肌寒いくらいだ。たぶん気温は20℃に届いていないものと思われる。昨日は道間違いもあり、2万歩も歩いてしまった。その疲れもあり、今日はこの広場から一歩も動かいない決意で撮影に臨む。撮影機材をセットし、万全の準備を整える。最初から飛んでいるのはタイワンヤマキチョウ。昨日も多数撮影したが、飽きることなく今日も時間をかけて撮影する。次にやって来たのはクロアゲハ♂、当地のクロアゲハは尾状突起がなく、一見するとナガサキアゲハのようだ。次にやって来たのはお目当てのホッポアゲハだ。残念ながら左後翅を大きく欠損したオスであった。続いてメスも来たのだが、存在に気付くのが遅れてカメラの準備が間に合わず撮影失敗!大失態だ!昨日もそうだったように、本種の吸蜜時間は短く、もたもたしているとアッと言う間に飛び去ってしまう。勝負はいつも一瞬だ。以降30分に一度のペースで飛来するが、何度シャッターチャンスがやって来ても毎回うまく写せていない自覚があり焦りが募る。高所をヒラヒラ渡っていくのはタカムクシロチョウだ。同定が難しいセセリが常時アガパンサスの花で蜜を吸っている。その他、アガパンサスに来ていたのはシータテハ。キミスジも活発に飛んでいる。しかし、正午を過ぎるころからアガパンサスにやって来るアゲハが少なくなる。気が付けばタイワンヤマキチョウも姿を消している。花の前に陣取っていても変化がないため、やむなく周囲を散策する。アキニレに似た高木の枝先にタテハチョウがとまり、テリを張っている。どうやらスギタニイチモンジのようだ。しばらくするとテリ張りをやめ、幹にとまり口吻を延ばし始める。どうやら幹から染み出す樹液を吸っているようだ。やや遠くではあったが、じっくり時間をかけて撮影する。午後2時頃から天気が安定しなくなる。やがて分厚い雲に覆われたたかと思うと小雨が降り出す。と思えば、わずか数分後には太陽が顔を出す。標高2000m、日本の北アルプスのように高山特有の天候の変化だ。今回の遠征における最後のチョウ撮影となったのは、ノイチゴ似の花で蜜を吸うタカムクシロチョウとなる。時間通りやって来た帰りのバス、もちろん運転手は例のF1ドライバーだ。天気が良かったため今日の乗客も多い。途中、道路沿いの集落で開店している臨時の果物屋に緊急停車する。乗客の多くを占めるオバチャン達、皆ゾロゾロと車を降りて、メイン商品である桃(商品名:水蜜桃)を試食ののち、箱単位で買っている。
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“試しにお前も食べろ!”とばかりに暴走運転手から桃を1個もらい食べてみると、これが結構美味なのだ。“おいしい!”と感想を述べると、“もう1個たべろ!”ときたもんだ。このドライバー、どうみてもお金を払っている様子はない。たぶん桃を買う上客を連れてきた見返り(=臨時停車した見返りに)、やや傷物の桃を代金を払わずにタダで食っているのではないか。正規の路線バスの運転手の職務を逸脱しているとしか思えないが、まあ台湾のド田舎のことなので細かいことを言う乗客はいないのであろう。再びバスが動き出し、しばらく走ったところで停車した。何もないところでなぜ停車した?窓越しに前方を見れば、大きなヘビが道路に横たわっている。長さは優に2mを超えている。長さだけなら日本のアオダイショウ並みだが、胴が太い!成人男性の手首くらいありそうだ。このヘビ、バスに踏みつぶされることなく山に消えた。更に10㎞山を下り、いつものトイレ休憩場所に到着。ここでも桃を売っているが、さすがに誰も買わない。しかし購買意欲充分のオバチャン達、ここでは桃の代わりに梨を買っていた。それも箱単位で。
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トイレ休憩ののち、猛烈な睡魔に襲われ、右に左に揺れるバスの中で熟睡してしまった。気が付けば駅近くまで来ていた。暴走運転手に3日間のお礼を述べ、別れを惜しむ。本日の宿は都会の台中市内、新幹線で移動する。ここでのホテルは部屋も広く、清潔で快適、日本のBS放送も映り、これまで泊まった台湾のホテルのなかでは最上級であった。惜しむらくはシャワートイレがなかったことか。午後9時半、気持ちよく眠りにつく。
7月25日
遠征最終日、今日は撮影することなく移動のみの日。前日に予約していたタクシーで高鉄(新幹線)台中駅に向かう。コンコース開場は5:40、開場まで約10分待ち、6:05の始発の新幹線で桃園駅に向かう。途中、窓の外では雨が降り出している。平地でこの天気なら、昨日までいた高標高地も同じであろう。この運の良さは日頃の行いが良いためか。高鉄(新幹線)桃園駅からMRTに乗り換え桃園空港に向かう。接近する台風の影響か、この辺りから、雨脚が強まり、土砂降り状態に変わる。空港についても外は真っ暗、時間通り、安全に飛行機の離発着ができるのか心配になるほどだ。案の定と言うべきか、到着便の遅れで帰り便の飛行機に乗り込めたのは所定の時間より1時間遅れ、更に乗り込んだのち、飛行場離発着混雑との理由により、10分に1機のペースでしか離陸できないとのこと、“現在この機は順番待ち5番目です”との機内アナウンスが流れる。仕事をしていた時はやはり時間遅れは気になったが、“毎日日曜日”の身分の今はどれだけ遅れようと気にならない。離陸後ウトウトしているうちに目が覚め、窓の外を見れば、高知湾の沖、足摺岬から高知市の辺りまできれいに見える。四国三郎・吉野川がうねる徳島市上空を経由、淡路島の東を経て、大阪湾に入り北から滑走路に進入する。開催中の大阪万博のシンボル木造円形の大屋根も綺麗に見える。所定の時間より2時間遅れで午後3時半、関西空港に到着する。外国人客でごった返すJR関西空港駅から乗り継ぎ、加古川駅着は午後6時、ここに今年3回目の台湾遠征を終了する。
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