◆播磨のヒメヒカゲ


 2000年観察記録

〔観察フィールド〕 標高130Mの丘のふもとの東側斜面で、酸性土壌の低木がはえる草原です。フィールドは一見乾燥草原のようですが、いたるところに涌き水があり、ヒメヒカゲはそのまわりに多産しています。観察フィールドの広さは100M×100M、200M×100Mの計2ヵ所です。

〔観察期間〕 観察期間は5月27日の初見に始まり、3頭のみにまで目撃数が減った7月1日までの36日間です。初見の5月27日については昨年もほぼ同じ時期だったので、他の山地性や森林性のチョウのように、春先の気温の影響はあまり受けていないようです。

〔観察データ〕 観察時間、天候、目撃数を表にすると次のようになります。

観察日 5/27 5/28 6/2 6/4 6/11 6/16 6/24 7/1
天気 はれ はれ くもり くもり はれ くもり はれ
観察開始時間 14:00 14:10 7:00 16:05 14:45 16:00 10:15 5:00
観察時間(分) 30 30 40 60 45 30 30 30
目撃数 5 10 26 約50 約40 約20 0 0
1 0 4 約10 約35 約50 約20 3
6 10 30 約60 約75 約70 約20 3
その他     交尾1P目撃 ♂破損はじまる ♂♀同比率、ウラナミジャノメ現る ♂全て破損、♀3割破損、交尾3P目撃 ♀全て破損、ジャノメ現る ジャノメ多い

〔目撃数〕 ♂♀ごとの目撃数の変化をグラフにすると次のようになります。たて軸を目撃数、よこ軸を日の経過としています。これから判断できることは、♂と♀の発生のピークに約10日間のずれがあること、累積発生数は♂♀ともほぼ同じか、若干♀が少なめであること、などです。但し6月11日にこのフィールドで採集者2人を見かけましたので、この採集により発生カウント数が影響を受けたと思われます。このカウント数はフィールドで発生している全てを網羅したものではなく、あくまで30分程度で見かけた概算数を示しています。30分より時間がかかっている日は、より詳しく調査しているのではなく、写真撮影に費やした時間分がプラスされているためです。

〔周日経過〕 日の出から日没まで活動しているようです。6月2日朝7時と6月16日午後2時に交尾状態の個体を目撃しました。いずれも♀が上で、驚かさない限り飛ぶことはありません。風の強い日は飛翔力が弱いためか飛びまわることが少ないです。高く舞い上がって飛ぶことはなく、潅木の上や間をピョンピョン飛び跳ねるように飛びます。雨上がりや無風の時は♂♀とも、翅を半開きを間欠にすることがあり、その時は深いグレー色の翅表が光の加減でビロード色に輝きます。

〔成虫の寿命〕 成虫の寿命はその間の天候にもよりますが、♂は10日前後、♀は2週間程度と思われます。♂がやや短いのは、探雌行動で活発に飛びまわるためかと思われます。6月11日にそれほど破損していない個体の♂が力尽きている例を2件目撃しました。今回の観察の中で、訪花・吸蜜には出合いませんでした。

〔ウラナミジャノメとの混生〕 ヒメヒカゲと同じフィールドにウラナミジャノメを見ることが出来ます。フィールドの中のより湿性のある場所にウラナミジャンメが棲むようです。湿性といってもヒメウラナミジャノメの棲む陰性の環境ではなく、あくまで明るい湿性草原に限られています。生息数は目算でヒメヒカゲの10分の1以下です。成虫の出現期間もヒメヒカゲよりやや短く、3週間程度です。

〔その他気づいたこと・その1〕 羽化直後のヒメヒカゲの♀は着地が上手ではありません。私が今まで知る限りではチョウのなかで、もっとも下手だとおもいます。抱いている卵が重いせいかどうかわかりませんが、目標にぶつかるように着地します。それが葉の上であれば、勢い余って葉から飛び出し、かろうじて葉のへりにつかまり止まってから体を立て直す感じです。イメージとしては記録映像で見るアホウドリの着地のようです。

〔その他気づいたこと・その2〕 このフィールドには、かつて普通にいたのに今ではほとんで見かけなくなった生き物がいます。それはコガネグモです。黒と黄のタイガース模様も鮮やかに力強い巣を張っています。私の子供のころはどこにでもいたのに、今では激減していると聞きます。注意して探しているわけではありませんが、確かにこのフィールド以外で見かけることは無いような気がします。6月はじめのコガネグモはまだ小さいですが、6月末になると大きな個体が多くなりますので、この1ヶ月に貪欲に捕虫しているのでしょう。ヒメヒカゲがコガネグモの餌食になったのをまだ見ていません。クモの巣にはよく接触しますが、鱗粉のおかげか、うまく難を逃れているようです。

以上2000年の観察記録でした。

1999年観察記録

全国的に衰亡いちじるしい草原性の蝶にヒメヒカゲがいます。小野市、加西市、姫路市、加古川市といった播磨地方においては、数を減らしているところもありますが、全体的には、まだまだ産地は健在です。加古川市の産地で確認したことをまとめてみました。

 生息する環境は例外なく、やせた土壌の山の斜面です。針葉樹、広葉樹を問わず高木は一切ありません。いわゆるハゲ山です。(*下段写真参照下さい)出現時期は昨年の例では、5月26日、27日頃。メスの発生時期の中心はオスのそれより、約一週間遅れますが、なかには、オスとほぼ同時期に発生するものもいます。昨年実績で、5月30日には産卵を確認しました。オス、メスの目撃数の比率は、目算ですが、5月30日オス、90%、メス10%、6月6日オス50%、メス50%、6月13日オス20%、メス80%といった感じです。

 同じ環境にウラナミジャノメとジャノメチョウも生息しています。ウラナミジャノメはヒメヒカゲと出現時期も同時で、いわゆる混生状態です。またウラナミジャノメはヒメウラナミジャノメと微妙に棲み分けているようです。ジャノメチョウは6月末頃、ヒメヒカゲとウラナミジャノメに入れ替わるように現れます。おのおのの食草については、今後調査予定です。

 生息環境において、もうひとつ興味深いことは、イシモチソウやモウセンゴケといった食虫植物が多く見られます。(*下段写真参照ください)

 ヒメヒカゲについては、今後のライフワークとして、生態観察を続けて行きたいと思っています。

モウセンゴケの一種 イシモチソウ ヒメヒカゲ生息地

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